秘密の部屋(翻訳版)

シリーズ二作目にして、ハリー、ロン、ハーマイオニーはますます仲が良くなっています。
ハーマイオニーはクリスマスの朝、入ってはいけない男子寮に二人を起こしに行ったり、
ハリーにクリスマスプレゼントとして「デラックスな鷲羽根のペン」というセンスの良い贈り物をしたり。

もちろん「真面目さ」とそこから無意識に生じる「嫌味」な態度も健在です。
まず、親友であっても、あまりに羽目を外しすぎるとそれが気に入りません。
物語の初めの方で生じる「ハリーとロンのホグワーツ到着方法」がなかなか許せません。
またスプラウト先生の「薬草学」の授業では、挙手にて予習して得た知識を披露!
(恐らくグリフィンドールに加点されることで、大したヒンシュクにはならないのでしょうが)
「変身術」の授業で作った完璧なボタンを二人に見せつけて、ロンの機嫌を損ねたり。

この巻で彼女にまつわるエピソードのうち、
重要なのはドラコ・マルフォイ絡みの『穢れた血』で、
微笑ましいのはギルデロイ・ロックハート絡みの「ミーハーぶり」でしょうかね。

『穢れた血』というのはマグル(人間)出身の魔法使いへの差別用語ですが、
両親が人間のハーマイオニーにとっては、逃れられない侮辱的単語のようです。
マルフォイは元来『純血』である自分を特別視していますが、それだけでなく、
マグル出身のハーマイオニーの方が、なにをやっても自分より出来が良いということが癪に障るのでしょう。

『穢れた血』はハーマイオニー絡みだけでなく、この第二作のキーワードであったりします。
作者がこの差別意識を英国社会に残る階級意識に反映するように表現しているとしたら・・・
ハリー・ポッター』シリーズの「最もイギリス文学らしいところ」の一つかもしれません。

ハーマイオニーのギルデロイ・ロックハートへの「ミーハーぶり」はちょっと意外!
ミーハーでも全く問題はなく、むしろコミカルさが増して良いと思いますが・・・
御執心の相手がロックハートですか???
見るからに上っ面なだけの人物なのに・・・観察眼鋭い彼女らしくないですね。
ロックハートの講義をうっとり聞き入る彼女。
ロックハートがサインした禁書借り出し許可書をマダム・ピンスに渡すのを拒む彼女。
ロックハートにバレンタインカードを贈った46人に、恐らく含まれるであろう彼女。
ロックハートのお見舞いカードを枕の下に入れて寝ている入院中の彼女。

笑ってしまう個所も多いですが、彼女の能力の高さは相変わらず健在です。
「魔法史」の授業中にビンズ先生から「秘密の部屋」についての情報を巧みに聞き出したしまったり、
「魔法薬」の授業中にスネイプ先生をダマくらかして、二角獣の角と毒ツルヘビの皮をくすねたり。
この辺りの奸計はキレ物の彼女ならでは!

50年前にホグワーツに現われた怪物は、トム・リドルが捕まえた怪物とは違うのでは??ということを勘で当ててしまったり。

観察眼鋭く、トム・リドルの日記と秘密の部屋の関係性を論理的に説明したり。
なにより秘密の部屋の怪物の正体を自力で解き明かすのは彼女です。
もっともその怪物に襲われて、石のように動けなくなってしまいますが、
ハリーが事件を解決するための証拠はしっかりと残します。

奸計、勘、観察眼、という彼女の3Kあってのハッピーエンド!
第一作同様、問題解決の糸口は彼女が掴むのです。(優秀なのさ)

最後に彼女のアイデンティティについて!
これはやはり「お勉強」ですね。彼女の場合単なる点取り虫ではないのです。
普通、どんな優等生だってテストがなければ嬉しいと思いますが、
彼女の場合は期末試験が取りやめになって、本当に残念がるんです。
また3年生になった時にどんな科目を取るか・・・については、
考える間もなく「全科目登録」ですから。
マジで勉強好きで、知識を得ることが喜びなのだと思います。

Jack的にこの第二作でもっとも印象的だったのは、
第13章で「トム・リドルがどんな生徒だったか」を話し合うところです。
抜粋すると、

ロンは鼻にしわを寄せ、むかついたような言い方をした。
「監督生、首席―たぶんどの科目でも一番か」
「なんだかそれが悪いことみたいな言い方ね」
ハーマイオニーが少し傷ついたような声で言った。

という部分です。
ロンハーな方々(ロンとハーマイオニーの仲が成就することを祈っている方々ですかねぇ?)に言わせれば、「ロンに言われたが故にハーマイオニーは傷ついた」となりそうな個所ですね。
しかしJack的に、ここはやはり「アイデンティティを傷つけられた」「自己を否定された」が故に傷ついたと見たいです。

第二作でのハーマイオニー
『穢れた血」と罵られ、自己を否定され、不覚にも猫に変身することになり、
挙句の果てにバジリスクに襲われて動けなくなって・・・
受難続きの試練続きだったように思えます。