不機嫌なメアリー・ポピンズ

旧宅からの引越し記事です。掲載日は2007年4月21日です。

ハンガリーに滞在していた頃、日本人旅行者から「ヨーロッパの人たちは皆、アメリカ英語でなく、イギリス英語を話す」と言っているの聞きました。

本日はある本の紹介です。
中央大学教授・新井潤美著『不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」―』(平凡社新書、2005年)というものです。
本屋さんで見つけた時、すぐさま手にとってしまいました。
というのもディズニー実写映画「メリー・ポピンズ」はJackのお気に入り映画Best3に入る「秀作」(Jack評)なのです。

とは言え、この本は映画「メリー・ポピンズ」の解説書ではありません。
イギリスの階級文化を小説と映画から理解しようという主旨と思われます。

ちなみに本書によるとイギリスの階級は上から「アッパー」「ミドル」「ワーキング」の三つに分かれ、さらに「ミドル」は「アッパー・ミドル」「ミドル・ミドル」「ロウアー・ミドル」に細分され、
この五つの階級ごとに、話される英語の発音、使われる慣用句が明らかに違うと解説されています。
そしてどんなに表向きを綺麗に飾ろうとも、
一言言葉を発しただけで出身階級がわかってしまうという、
日本人の想像を越えたイギリス英語の実体が紹介されています。

現在のイギリスでは階級を越えた結婚やお付き合いもあるようですが、
一昔前までは厳密に区分された社会が成り立っていたようです。
このような事情が映画とその原作小説から説明されています。

例えば『ブリジット・ジョーンズの日記』ですが、主役のブリジットは「ロウアー・ミドル」で、
恋人のダーシーは「アッパー・ミドル」だそうです。
原作ですとこの階級差から生まれる微妙な滑稽さが描かれているようです(Jackは原作未読で、映画はPart2だけ観ました)。

ちなみにイギリス英語と縁のないハリウッド女優レネー・ゼルウィガーは、
このブリジット役を演じるにあたり発音の猛特訓をしたそうです。
アメリカの発音ではイギリス人がこの映画を観た時、全くの興ざめになったであろうとのこと。

日本人にしてみれば、アメリカ英語とイギリス英語の差を、
”I can・・・”を「アイ・キャーン」とするか「アイ・カーン」とするか、程度のことのように感じますが、この本を読むことでそのような薄学はぶっ飛びます。

ちなみに映画と原作についての解説も面白いので、
Jackは10年程前に観た時は面白さを理解できなかった「眺めのいい部屋」を、
もう一度観直す気になりました。

著者はこの本で取り上げた映画と原作を概ね観ているようですが、
ハリー・ポッター」だけは映画のみ!の感があります。

かつてヘップバーンの「マイフェアレディー」を観た時、
「発音を直しただけで、上流階級に入り込めるわけないじゃん・・・それ相応の教養も必要でしょう?」と思ったJackでしたが、
イギリスの上流階級は仏・伊と違って、教養はなくても良い、
むしろ教養は下から上昇する為の手段であって・・・ということを知って、妙に納得しました。

こうして見ると「ハリー・ポッター」のハーマイオニーが、
両親人間の成り上がり魔術師家系ゆえに猛勉強をして、
貧しいけど古い魔術師家系のロンが呑気にやっているという構図も理解できるわけです。
なんかイギリス社会って世知辛いですね。