賢者の石(翻訳版)

ハリー・ポッターのシリーズ第一作、『賢者の石』!
全17章のうち、ハーマイオニーのイメージが良くなるのは第10章「ハロウィーン」以降になります。
それまでの彼女は、ハリーの言葉を借りるなら「ここまでお節介なのが世の中にいるなんて信じられなかった」ですが、
彼女はハリーとロンの校則破りを未然に防ぐために、ものすごい非難の嵐を浴びせます。
それも「自分が取った「グリフィンドールの点」がご破算になる」とか、「監督生に言いつける」とか、物言いも可愛くありません。

また自分が優秀であるとことを売り込む行為(他人にはまったくそのように見える)も始終炸裂。
魔法薬の授業でも、スネイプ先生を相手に高々と挙手! 
第10章では「妖精の呪文」の授業での「ものを飛ばす」練習を、ロンと組んだ彼女は、その優秀さからロンをやりこめてしまい、「悪夢みたいなやつ」と言わせてしまいます。
このロンの言葉がひどく彼女を落ち込ませ、一人トイレで泣いてしまう、という事態に・・・

とりあえずこの時点までで、彼女に友達と呼べるものはいなかったようです。
少々友達付き合いが下手であった、という点は間違いないことかもしれません。
もっともハリー・ポッターシリーズは第三者的な視線から描かれているものの、
ハリーの心情を中心に進むので、ハリーのハーマイオニーへの見方が変わらない限り、記述もハーマイオニーに不利に読めてしまします。

とは言え、ハーマイオニーは心優しい少女です。
初登場シーンは「少々鈍くさい同級生のネビルのペットのヒキガエルがいなくなって、それを一緒に探す」というものです。
ハリーとロンは「見ていない、知らない」で探してあげようとはしなかったのに・・・

さらに単なる暗記力の良さだけでなく、観察眼の素晴らしさを披露したのは第9章で、
「禁じられた廊下」に入り込んでしまったハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビルが、三つの頭を持つ怪獣犬と出会い、命拾いをしますが、
この危険な状況のさ中、「怪獣犬が仕掛け扉の上に立ち、何かを守っている」ことを瞬時に観察します。
このことは、物語後半で賢者の石を見つけ出す、重要な手がかりとなります。

第11章以降でハリー・ロンとつるむようになった彼女は、その能力をハリーを助けるのに十分活用します。
また彼女の優しさも十分伝わるような書かれ方になります。

第13章でマルフォイの悪戯で「足縛りの呪」をかけられたネビルを、みんなが笑う中、
彼女だけは笑わず、その呪を解いて慰めます。
第16章では逆にやむを得ずにネビルに「全身金縛り」をかけますが、非常に辛そうに魔法を使い、
それもハリーに「なんとかしてくれ」と頼まれてのこと。
目的遂行のために仕方がなく呪文を唱えたという感じ。

『賢者の石』での彼女は、人を助けることに魔法を使うことが多く、
時々攻撃的な使い方もしますが、あくまで友人が危機的状態にある時だけです。

優秀さ!という点でも、
「軽い読書をしようと思って」と言って、巨大な本を図書館から借りたり、
「試験で百点満点中百二十点なので、私を退校にはしない」と言ったり、
物語前半戦で同じセリフが出たら、「嫌味な女の子」になってしまうところが、
ハリーたちと仲良くなった後なので、痛快にすら聞こえます。

結局主役はハリーですからねぇ。
ハリーがヴォルデモートと戦う決心をした時、非常にその行為が勇敢に描かれますが、
ハリーが先に進むために、ロンが「巨大チェス」で自らを犠牲にする行為は、どちらかというとアッサリ書かれているような・・・

最後にハーマイオニーが魔法を使わずに、論理的な思考能力のみでスネイプの罠を破るところは、
彼女の冷静さと優秀さの賜物でしょう。
もっともスプラウトの「悪魔の罠」に対面した時は、マグル(人間)的解決を考えてしまい、
ロンに「君はそれでも魔女か!」と基本的な指摘を受けてしまいますが・・・

(どーでもいいですが、この魔法学校の先生方は、1年生に破られてしまう罠ばかりかけて、本当に先生なのかしら??という疑問も湧きます)

最後のほうでハーマイオニーはハリーに対して、
「私なんて!本が何よ!頭がいいなんて何よ!もっと大切なものがあるのよ・・・友情とか勇気とか・・・」と言いますが、
彼女の方がハリーより勇気もあって、友情にも厚いと思われますが、気のせいでしょうか?
これはハリーを讃える言葉ではなく、ハーマイオニーが実に良識があり、謙虚な心も持っているという解釈で読みたく思います。

結局主役はハリーですからねぇ。
ロンとハーマイオニーにお膳立てしてもらって、彼が一番おいしい所を持って行くようになっているんですよ。