警視の週末

ミステリーの紹介です。
講談社文庫から2007年7月に出版されたデボラ・クロンビー(Deborah Crombie)の、
『警視の・・・』シリーズ最新刊、『警視の週末』(原題 Now May You Weep)(西田佳子訳)です。

この『週末』で『警視の・・・』シリーズも9作目!
前作が出てから今作まで、ずいぶん待たされたような気がします。

本シリーズの主役は元来スコットランドヤードの警視、ダンカン・キンケイドだったと思うのですが、
話が進むにつれて、ダンカンの部下、ジェマ・ジェイムズになってしまったような気がします。
また部下であったジェマも、いまやダンカンとは恋人同士!!!
巡査部長だったところが警部補に昇進してノッティング・ヒル署に異動、ダンカンとのコンビ解消。
私生活では同居中・・・となっているわけです。

シリーズを通じてダンカンとジェマの関係の進展度は徐々に描かれてきましたが、
作品中で取り上げられる殺人事件は読み切りで、次巻に持ち越されることはないので、
一作目から読む必要は必ずしもなし、です。

シリーズ中盤くらいから定着したクロンビーの手法は
現在起こった事件と登場人物(もしくは登場人物に深く関係する人物)の過去の話を、
オーバーラップさせるというか、同時進行で描くという点にあります。
過去の物語が進行するにつれて、その話が現代の殺人事件にどう関係してくるかがわかってくる・・・
それを楽しみながら、殺人事件の動機をあれこれ想像するのが楽しいわけです。

本作『週末』もこのスタイルですが、ちょっと勢いが落ちたかな??という印象。
過去の話が直接的な事件の動機として書かれておらず
むしろ現在の人間関係の前提として過去の話を描いている・・・

本シリーズの殺人事件の捜査は科学捜査よりも、動機に注目して進められるタイプです。
またものすごいトリックが隠されているわけでもないので、
伏線を見逃さなければ、案外簡単に犯人を推測することができます。

本作『週末』が少し失速したかのように感じたのは、
過去の話と殺人事件の直接の動機が結びついてこないということと、
殺人の動機が案外に単純であったからです。
過去の話がなくても、事件の発生・解決が成立してしまうので物足りないのです。

そう考えると、クロンビーがこの「過去と現代を行き来する」手法で描き出した頃が、
一番楽しかったのかもしれません。
シリーズ5作目、6作目の『警視の死角』『警視の接吻』あたりが最高だったかも・・・

まあ、主役二人の私生活が、お互いの連れ子のことも絡んで、波瀾万丈なので、
もー少し、このシリーズは続きそうです。