ふたりの老女

ヴェルマ・ウォーリス著、亀井よし子訳『ふたりの老女』(草思社、1995年)
という本の紹介です。

著者のウォーリスは1960年にアラスカに生まれ、
アラスカ・インディアンの伝統にのっとった教育を受けて育ち、
現在も狩猟・採集の生活を営みながら執筆活動をしている人です。

まず物語のあらすじ!
遊動しながら生活している、あるアラスカ・インディアンの集団に、普段から不平・不満の多い二人の老女がいた。
ある極寒の冬、食糧危機になったその集団は、この老女たちを置き去りにすることを決めた。
75歳と80歳の老女は二人で生き抜き、その知恵によって住む場所、食糧を確保していくが、集団の方は老女たちを捨てた後も厳しい生活を余儀なくされる。
集団はある日、生き抜いた老女たちを見つけ、その知恵を敬い、再び二人をむかい入れようとする。
自分たちを捨てた集団に対して、最初は頑なであった二人も集団と和解して、若者たちに知恵を授け、敬われながら一生を終える。

と書いてしまうと、すごく単純そうな話しなんですけど、
読むと、かなり深い内容だとわかります。

Jackとしては二人の老女が、老体に鞭打って、強く生き抜くあたり、
年を取ったからといって、楽をしようとしてはいけないし、
楽をしようと求めると、不平・不満ばかりになっていく、
という教訓や
年寄りは敬うに値するものであるという、作者の意図も理解したつもり・・・

しかーし、Jackがもっとも印象に残った部分は
83-96頁あたりで、二人が自分たちの過去を語る部分があるのですが、そこです!

自然とともに生きていくのは大変! 個人ではなかなか生き抜けないもの。
集団で生きていくことは重要なことで、その「おきて」や「習慣」は決して破ってはいけない!
また性的分担が確立されていて、集団の中の仕事はほとんど女性が受け持つ。
男性は狩猟に専念し、狩猟の為の武器は、時に「愛する人」よりも大事にしなくてはならない。
そして年頃になれば誰かと結婚して、子供を生み育てて、組織としての集団を維持していくことも求められていくのです。

この二人の老女のうちの一人は、若かりし頃、この習慣を破って、
集団から追い出された経験の持ち主。
現代の日本で生きている立場からすれば、
この人の行動は特に非難される性質のものではなく、
むしろ現代では個性的であると評価されそうな感じもします。

しかし厳しい自然の中で、生きていくことを最優先に考えて行動することが求められる社会では、排除されるべきものとして位置づけられるのかもしれません。

本書はこれ以外には、自然の中で生きていく知恵が満載で、
また日本で多く紹介されている、
ネイティブ・アメリカンの生き方、考え方を記した本と
共通する部分を多く持っています。

身近な世界の話ではないのに、すんなり読めてしまいます。
日本語訳が良いというのもあるかもしれません。