脱獄山脈

太田蘭三著、『脱獄山脈―長編山岳推理』を紹介いたします。
Jackの手元にあるのは祥伝社文庫から平成15年に刊行されたものです。
もっとも初出は昭和53年12月、太田氏の長編第二作として刊行されているので、
それほど新しい作品ではありせん。
かなり知名度の高いミステリーかもしれません。
テレビドラマにもなっているし。

推理小説として見た場合、それほど複雑な謎解きがあるわけではありません。
犯人に具体性が出てくるのは後半ですが、
ミステリー慣れしている人であれば、カンで犯人が分かるかもしれません。
気を付けていると、犯行の裏にある人間関係もわかってしまうかもね。

本書は平たく言ってしまうと脱獄囚4人の逃走記みたいなもんですが、
逃走中にだんだんと人間的に変化が見られる点に、一つの面白みがあるかもしれません。
酒飲み、朝寝坊登山者だったのに、物語後半で脱獄囚4人のうちの一人(ヤクザ)が、
「山では早寝早発ちが鉄則だ。わかったら早く寝ろ」と
山小屋で騒いでいる若者グループに説教するところは笑いました。

山岳小説として見た場合、「これは有りえね~!!」って感じですかねぇ?
歩く距離が尋常じゃありません。
登り始めは東京の奥多摩駅から六ツ石山なんですけどね、かなりの健脚者ペースで、
笠取山甲武信岳金峰山へと縦走して、清里のあたりで一回下山。
列車で松本の方に移動。上高地から再び入山。
槍ヶ岳から裏銀座へ、針ノ木峠を越えて後立山連峰に入り、
最後は朝日岳から栂海新道を通って親不知海岸まで縦走・・・・

どんな体力があればこの行程を実行できるのでしょうか?

山を扱った小説には山岳小説や山岳推理小説、山岳恋愛小説・・・
色々ありますが、この小説は山度は20%くらいじゃないですかねぇ??
推理度は40%くらい、残りの40%は「人間模様」ですかね。

山度が低いのは、主人公がほとんど山中にいる割に、山にいる緊張感をあまり感じないからです。
脱獄囚が人命救助するのは、そのギャップがドラマ的要素を高めるかもしれないけど、
実際に人を一人かついで救助するって、そんな簡単なことじゃないと思うんですよ。
これを、いとも簡単にされてしまうと・・・現実味下がるなぁ・・・

小説で読むより、テレビドラマを観た方がいいかな?
DVDは出ているんですかねぇ??